
「日当5万〜10万円」の誘いが、75歳男性の命を奪う強盗事件につながった。2024年に首都圏で相次いだ闇バイト強盗をめぐり、2026年10月14日、実行役とされる藤井柊被告と久保田陸斗被告の初公判が千葉地裁で開かれた。2人は起訴内容をおおむね認めた一方、弁護側は指示役による脅迫を訴えた。事件発生から裁判までの経緯を振り返る。
横浜市青葉区で75歳男性が死亡 2024年10月の強盗事件で何が起きたのか
2024年10月16日、横浜市青葉区の住宅で、住人の後藤寛治さん(当時75歳)が死亡しているのが見つかった。事件発覚当時、住宅の窓ガラスは一部が割れ、室内には複数の土足の跡が残っていた。後藤さんは手足を粘着テープで縛られ、顔にもテープが巻かれた状態だったと報じられた。司法解剖の結果、死因は全身打撲による出血死と判明した。
後藤さんは妻と2人暮らしだったが、妻は事件当時外出しており無事だった。警察は住宅から現金約20万円がなくなっていたことなどを把握し、強盗殺人事件として捜査を進めた。神奈川県警は89人体制の特別捜査本部を設置。首都圏で相次いでいた住宅への強盗との関連も調べ始めた。
今回の裁判で示された起訴状によれば、被告らは2024年10月15日、金品を奪う目的で後藤さん宅に侵入し、暴行を加え、現金などを奪って死亡させたとされる。事件が起きたとされる日と遺体が発見された日は異なる。ここは事件の時系列を理解するうえで重要だ。
住宅の中でどのようなやり取りがあり、誰がどの暴行を加えたのか。事件の詳細な役割分担については、初公判の短い速報だけで確定できない部分もある。暴行の具体的な態様を推測で補うのではなく、起訴状や今後の証人尋問で明らかになる内容に基づいて判断する必要がある。
後藤さんは75歳だった。自宅という最も安全であるはずの場所で命を奪われたことが、この事件の深刻さを物語る。首都圏で続いた闇バイト強盗の中でも、横浜市青葉区の事件は死者が出た事案として特に大きく報じられた。
事件の発覚直後、警察は住宅の窓や室内の痕跡を調べる一方、周辺で相次いだ侵入強盗との共通点を追った。個別の住宅強盗として見れば突然の事件に映るが、捜査が進むにつれて、SNSを介して実行役を集め、離れた地域で犯行を繰り返す組織的な構図が浮かび上がった。
藤井柊被告と久保田陸斗被告の初公判 認めた内容と争われた金額
事件から約2年後の2026年10月14日、千葉地方裁判所で藤井柊被告(28)と久保田陸斗被告(23)の裁判員裁判の初公判が開かれた。2人は横浜市青葉区の強盗致死事件のほか、千葉県船橋市や白井市などで発生した強盗事件への関与についても、強盗致死や強盗傷害、住居侵入、逮捕監禁などの罪に問われている。
藤井被告は起訴内容について「間違いありません」と述べた。久保田被告もおおむね認めたが、船橋市の事件で奪ったとされる現金の金額については「少し違ったと思います」と述べ、弁護側も金額の一部を争う姿勢を示した。つまり、2人がすべての起訴内容を一字一句認めたというわけではない。
裁判は千葉地裁で行われている。横浜の事件だけでなく、千葉県内の複数事件も対象になっているためだ。10月15日には証人尋問が予定され、判決は11月6日に言い渡される見通しと報じられた。ただし、審理日程は変更される可能性がある。
今回の初公判が重要なのは、事件の存在や被害状況だけでなく、被告らがなぜ犯行に参加したのかについて、検察側と弁護側が異なる説明を示した点にある。起訴内容を認めることと、動機や犯行に至る事情、量刑について争うことは両立する。
検察側は、2人がSNS上の求人情報などを通じて指示役とつながり、闇バイトを紹介され、短時間で金を得ようとして犯行に及んだと主張する。一方、弁護側は、指示役に自分や家族の個人情報を知られ、危害を加えると脅されていたため、簡単には抜け出せなかったと説明した。
どちらの説明がどの程度認められるかは、今後の審理と判決を待つ必要がある。少なくとも、被告らが金銭的な動機で応募したという説明と、途中から脅迫を受けたという説明は、時間軸によっては同時に成立し得る。最初の応募動機と、その後に犯行を断れなくなった事情を混同してはいけない。
「日当5万〜10万円」「家を燃やす」 闇バイト応募から犯行に至るまで
10月14日の初公判を報じた日本テレビ系の取材では、藤井被告は趣味に使う金が欲しかったとされ、SNSで「いいバイトを紹介する」という趣旨のメッセージを受け取ったという。弁護側の説明によれば、日当は5万〜10万円とされ、当初は夜間警備の仕事だと思っていたと主張している。
しかし現場で指示されたのは強盗だったといい、その後も指示役から警察に話せばただでは済まないと脅されたという。こうした説明は被告側の主張であり、裁判所が事実と認定したものではない。
久保田被告については、金に困ってSNSで「即日即金」「日給5万円」などの言葉を検索したと報じられた。指示役からの連絡が犯罪に関係すると気づき、いったん拒否したものの、見張り役として参加することを了承したという。ところが、実際の現場では家に入るよう指示され、断ろうとすると「お前の家燃やすぞ」「周りに迷惑かかるぞ」などと脅されたと弁護側は説明した。
報道では、2人の報酬はそれぞれ30万円だったとされる。ただし、実際にどの段階で、どのような方法で支払われたのか、支払額が事件ごとにどう対応するのかまでは、確認した記事から断定できない。高額報酬の約束が応募を促す一方、身元情報を握られたことが離脱を難しくしたという構図が、弁護側の説明から見えてくる。
指示役が個人情報を把握し、家族への危害をほのめかす手口は、闇バイトをめぐる警察の注意喚起でも問題視されてきた。住所、家族構成、身分証明書の画像などを渡してしまうと、応募者が恐怖を感じ、違法な指示に従ってしまう危険がある。
ただし、脅迫があったという主張は、強盗行為の責任を自動的に消すものではない。脅迫の具体的な内容、危険の切迫性、拒否や離脱の可能性、各被告がどの段階で何を理解していたかなどが、量刑を考えるうえで重要になる。
そもそも「ホワイト案件」「警備」「即日即金」といった表現は、仕事の実態を保証するものではない。募集時に説明された内容と現場での指示が食い違う場合、犯罪への勧誘である可能性を疑う必要がある。脅された場合は自分だけで解決しようとせず、警察に相談することが重要だ。
首都圏18件・被害約2300万円の連続強盗 指示役の責任と今後の裁判
2024年に首都圏で相次いだ闇バイト強盗について、日本テレビ系の報道は東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県で計18件、被害総額は約2300万円相当、検挙された実行役などは50人以上にのぼると伝えている。今回の横浜市青葉区の事件は、その一連の事件の中で死亡者が出た事案だった。
事件発生当時には、横浜の強盗殺人事件をめぐり別の実行役として宝田真月容疑者が逮捕されたことも報じられた。捜査の過程では、応募者同士が事前に知り合いだったわけではなく、指示役のもとで現場に集められたとする説明も伝えられている。個々の被告の訴追状況や裁判結果はそれぞれ異なるため、今回の2人の初公判と他の関係者の事件を混同しないことが重要だ。
連続強盗事件の特徴は、実際に住宅に侵入する人間と、離れた場所から指示する人間が分かれている点にある。SNSなどで応募者を集め、仕事内容を偽って誘い、個人情報を使って脅すという仕組みが事実なら、現場の実行役だけを処罰しても、同様の被害を繰り返す危険は残る。
その一方で、指示役の存在を理由に実行役の責任がなくなるわけではない。被害者は指示役の顔も知らないまま、突然自宅に押し入られ、暴行を受けた。誰が計画を立て、誰が現場に入り、誰が暴行に関与し、どのように利益を分けたのかを、それぞれの証拠に基づいて解明する必要がある。
今回の裁判で注目されるのは、金銭目的で応募したという検察側の主張と、家族を脅されて逆らえなかったという弁護側の主張が、量刑判断にどう反映されるかだ。犯行を認めている以上、被告らの説明がそのまま無罪につながるという話ではない。裁判所が各被告の役割、犯行への主体性、脅迫の実態、被害結果をどのように評価するかが焦点になる。
後藤寛治さんは75歳で命を奪われた。金銭を得ようとした動機や脅迫への恐怖を検討することは、被害の重大さを軽く見ることではない。事件を繰り返さないためには、指示役の摘発、SNS上の勧誘への対策、応募者が脅迫を受けた段階で相談できる仕組みの整備も欠かせない。
判決は11月6日に予定されている。今後の証人尋問や判決で、事件ごとの役割分担や脅迫の程度について、どこまで事実認定が示されるかを追いたい。
参考資料:tvkニュース(2026年10月14日)、テレ朝NEWS(2026年10月14日)、共同通信(2026年10月14日)、テレ朝NEWS(2024年10月18日)、共同通信(2024年10月17日)、日本テレビ系報道(2026年10月14日)