まず最初に明確にしておくべき事実がある。2025年7月5日に地球に隕石が衝突するという科学的証拠は、現時点で一切存在しない。
NASA、JAXA、ESA(欧州宇宙機関)をはじめとする世界の宇宙機関が一致して「そのような天体は観測されていない」と断言している。この事実を踏まえた上で、なぜこの予言が世界規模の騒動となったのかを検証していく。
現代の天体監視システムが示す明確な事実
JAXA宇宙科学研究所の藤本正樹所長の証言:
「2025年7月5日に地球に衝突する天体は発見されていません。7月5日衝突説の科学的根拠はありません」
JAXAの吉川真氏の解説:
「直径10m以上・衝突確率1%以上の天体が現れればすぐに公表される観測システムがある。隠すことはできない」
現在の監視体制の精度:
- 地球近傍天体(NEO)の24時間監視体制
- 直径数メートルの天体でも数週間前には発見可能
- 危険な天体は即座に国際共有される仕組み
- 直径10km級の小惑星が発見されずに接近する確率は「ゼロに等しい」
つまり、科学技術的に「隠れた隕石」の存在は不可能なのが現実だ。
予言の発端:漫画家の「夢」が根拠の全て
では、なぜこれほど多くの人が信じるのか。発端を辿ると、すべては漫画家たつき諒氏の「夢日記」に行き着く。
たつき諒氏は1999年に『私が見た未来』を発表し、自身が見た予知夢を記録していた。「大災害は2011年3月」という記述が東日本大震災と一致したことで、予言者としての注目を集めた。
2021年の『私が見た未来 完全版』では「2025年7月に大災害発生」と記載されている。しかし、ここで重要な事実がある。たつき諒氏自身は「2025年7月」としか言及していない。
「7月5日」という具体的な日付や「午前4時18分」という時刻は、SNSやネット上で拡散される過程で後付けされた情報である。つまり、隕石衝突説の「根拠」とされるものは、原典からさらに離れた「尾ひれの付いた情報」に基づいているのが実情だ。
この事実は、情報が伝播する過程でいかに歪曲されやすいかを示している。元々曖昧だった予言が、具体的な日時を得ることでより「信憑性」があるように見えてしまう現象の典型例と言えるだろう。
しかし、重要な点は以下の通りだ:
- 科学的観測データは一切ない
- 計算式や軌道予測も存在しない
- 第三者による検証も不可能
- 根拠は「夢を見た」という主観的体験のみ
専門家による津波予測の科学的検証
予言では「100メートル超の津波」が想定されているが、これも科学的に検証すると問題が山積している。
津波研究の専門家による見解:
- 隕石による津波は隕石の規模に比例する
- 100m級津波には直径数キロの巨大隕石が必要
- そのサイズの天体なら数年前から観測される
- 過去の隕石落下事例でも数十メートルが限界
つまり、予言される規模の災害には、現実的に観測不可能な「巨大隕石の隠蔽」が前提となっており、科学的に矛盾している。
なぜ根拠ゼロの予言が拡散するのか
SNS時代の情報拡散力
YouTubeでは関連動画1000本以上、総再生数1億回突破。TikTokでも50本以上の動画が4000万回再生されている。
過去の的中体験による「信頼貯金」
東日本大震災の予言的中が、たつき諒氏への信頼度を押し上げた。しかし、1回の的中が将来の予言の科学的根拠になるわけではない。
複合的な不安要素
- コロナ禍による社会不安
- 地政学的リスクの高まり
- 気候変動による自然災害の増加
これらの背景が、非科学的な予言への関心を高めている。
現実世界への具体的影響:経済損失も発生
香港の航空業界:
- 日本行きツアーの大量キャンセル
- 航空便の減便措置
- 「これまで経験したことのない事態」(業界関係者)
日本国内:
- 防災グッズの異常な売上増加
- 一部商品の品薄状態
- 鈴木おさむ等著名人の「避難宣言」
科学的根拠のない予言が、実体経済に数億円規模の損失をもたらしている現実がある。
気象庁・専門機関の公式見解
気象庁:
「現在の科学的知見では時期や場所、規模を特定した地震や噴火の予知はできません」
東京大学大学院・関谷直也教授:
「科学的根拠のない噂を広めないことが重要。仮に7月に地震などが起きてもそれは予知ではない」
正しい防災対策:科学に基づく備え
根拠のない予言に振り回されるのではなく、科学的知見に基づいた防災準備こそが重要だ。
推奨される具体的対策
- 最低72時間分の食料・水の備蓄
- 避難経路と避難場所の事前確認
- 家族との緊急時連絡手段の確保
- 地域防災訓練への定期参加
- 気象庁等、信頼できる情報源の把握
将来の隕石脅威への現実的対応
- 国際的な監視ネットワークの強化
- DART計画のような軌道変更技術の発展
- 早期警戒システムの精度向上
結論:科学と迷信の境界線を見極める
2025年7月5日の隕石衝突説は、現在の科学技術では完全に否定されている。
しかし、この騒動から学ぶべき教訓もある:
1. 情報リテラシーの重要性:感情的な情報と科学的事実を区別する能力
2. 継続的な防災意識:根拠のない予言ではなく、日常的な備えの習慣化
3. 専門機関への信頼:SNSの情報より公的機関の発表を重視する判断力
真の安全は、科学的根拠に基づいた準備からのみ生まれる。予言に踊らされることなく、冷静な判断と継続的な備えを心がけることが、私たちにできる最良の対策である。
7月6日の朝、私たちは何事もない日常を迎えるだろう。そして、この経験を通じて学んだ「科学的思考の大切さ」を、今後の人生に活かしていくことが重要だ。