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酒気帯び乗務だけじゃなかった――東海汽船、検査の肩代わり・舷門開放・管理体制不全で「船舶20日停止」へ

東海汽船の酒気帯び乗務や検査不正、船舶使用停止命令を扱う記事ヘッダー画像

酒気帯びで航海当直。

アルコール検査の“肩代わり”。

舷門を閉めないままの運航。

発航前検査の不適切運用。

そして2026年10月2日、ついに国土交通省は東海汽船に対し、船舶3隻を20日間使用停止とする行政処分を出した。

対象は大型客船「橘丸」、高速ジェット船「セブンアイランド結」「セブンアイランド友」。期間は10月9日から28日まで。

東海汽船といえば、東京と伊豆諸島を結ぶ生活航路を担う会社だ。観光客だけではない。島民の通院、通学、仕事、生活物資の輸送まで支える、文字通りの“生命線”でもある。

その会社で、いったい何が起きていたのか。

今回の問題は、一人の船員が酒を飲んだという単純な話ではない。

国交省は、安全管理規程違反など複数の問題を確認。東海汽船自身も、酒気帯び乗務、アルコール検査の不適切運用、舷門未閉鎖、発航前検査の不適切運用、安全管理体制の機能不全を認めている。

さらに報道では、今年元日の船内で少なくとも10人以上の乗組員が酒を飲み、その後に一部が当直勤務に就いたとされる。

しかも、その「新年会」に近い慣行は30年以上続いていたという。

これはもう「現場の一部がルールを破った」で片づけるのが難しい。

安全を守る仕組みそのものが、長い時間をかけて形骸化していなかったか。

そこが今回の問題の核心だ。

国交省が船舶3隻に「使用停止命令」

国土交通省は10月2日、東海汽船に対して海上運送法第17条に基づく船舶の使用停止命令を発出した。

使用停止となるのは以下の3隻だ。

  • 橘丸
  • セブンアイランド結
  • セブンアイランド友

停止期間は10月9日から10月28日までの20日間。

東海汽船が対象航路で運航している5隻のうち3隻が止まる。

国交省は、2026年1月以降に東海汽船と同社所有船舶への検査を実施し、安全管理規程を遵守していないなど海上運送法違反の事実を確認したとしている。

通常の会社であれば「営業停止」に近いインパクトを持つ処分だ。

だが東海汽船の場合、単純に全航路を止めることもできない。

伊豆大島、利島、新島、式根島、神津島、三宅島、御蔵島、八丈島など、東京諸島の住民にとって重要な交通インフラだからだ。

そのため国交省も、島民生活への影響を最小限にする必要性を考慮。東海汽船は「さるびあ丸」「セブンアイランド大漁」に加え、伊豆諸島開発の「くろしお丸」、小笠原海運の「おがさわら丸」を使った代替運航を組む。

発端は「酒気帯び乗務」

大きな問題として表面化したのは、船員の飲酒だった。

報道によると、2026年元日、船内で少なくとも10人以上の乗組員が集まり、ビールなどを飲酒。

その後、一部の乗組員が酒気を帯びた状態で航海当直に就いたとされる。

航海当直は、船の安全運航を直接担う業務だ。

自動車でいえば、酒を飲んだ運転手がそのままハンドルを握ることに近い。

もちろん船舶と自動車では制度も運航体制も異なる。

しかし、乗客を乗せた船の運航に関わる者が酒気を帯びて勤務することの重大性は説明するまでもない。

さらに「アルコール検査の肩代わり」

問題をさらに深刻にしたのが、アルコール検査そのものの不適切運用だ。

東海汽船は、船員によるアルコール検査の肩代わりがあったことを認めている。

つまり、飲酒している本人ではなく別の人物が検査を受けるような運用が行われていたということになる。

アルコール検査は、本来なら飲酒状態の船員を業務から排除するための安全装置だ。

その安全装置自体が破られていた。

これは単に「検査を忘れた」というレベルではない。

検査をすり抜けるための行為があったとすれば、安全管理の根本が崩れていたことになる。

舷門を閉めないまま運航

そして問題は飲酒だけではなかった。

東海汽船は、舷門を閉鎖しない状態で運航した事案も認めている。

舷門とは、乗客や荷物が乗り降りするために船体側面などに設けられた開口部だ。

当然ながら、航海中は適切に閉鎖されていなければならない。

ところが、その基本動作すら徹底されていなかったケースが確認された。

さらに発航前検査についても、不適切な運用が行われていた。

船が出る前に安全状態を確認するための検査。

そこまで形骸化していたとなれば、個人の問題だけに責任を押し付けることは難しい。

13件の法令違反を認定

TBSは、今回の一連の問題について13件の法令違反が認定されたと報じている。

酒気帯び当直。

アルコール検査の不適切運用。

舷門未閉鎖。

発航前検査の問題。

そして、それらを防ぐべき安全管理体制の機能不全。

これほど多くの問題が一度に表面化したこと自体、東海汽船内部で「安全ルールを守る文化」がどこまで徹底されていたのかを問い直す材料になる。

安全統括管理者と運航管理者には「解任命令」

すでに8月28日の時点で、国土交通省関東運輸局は東海汽船に対し、安全統括管理者と運航管理者の解任命令を出していた。

それだけではない。

「輸送の安全確保に関する命令」と、船員法に基づく「是正命令」も出されている。

安全統括管理者は、会社全体の安全管理を統括する立場。

運航管理者は、実際の船舶運航の安全確保に重要な役割を持つ。

その2人を国が「解任しなさい」と命じた。

これは、今回の問題が現場船員だけの不祥事として見られていないことを象徴している。

「30年以上続いた慣行」

特に衝撃的なのが、元日の飲酒をめぐる“慣行”だ。

TBSの報道によれば、船内で新年に酒を飲む慣行は30年以上行われていたという。

東海汽船の山﨑潤一社長も、元旦に安全祈願としてお神酒を飲む慣習・慣行が存在していたこと自体は認識していたと説明している。

ただし社長は、適切なアルコールチェックを行った上で業務に就いているものと考えていたとしている。

ここには非常に大きな問題がある。

経営トップが慣習自体を知っていた。

一方で、その後のアルコール管理が現場で適切に運用されていると信じていた。

結果として、酒気帯び当直や検査の肩代わりが問題になった。

つまり、ルールは存在していたが、経営側が現場の実態を把握できていなかった可能性がある。

社長「誇りが奢り、甘えになった」

10月2日、東海汽船の山﨑社長は記者会見で謝罪した。

その中で、東海汽船が137年にわたり生活航路を運航してきた歴史に触れながら、長年の慣れによって「誇り」が「奢り」や「甘え」に変わってしまったのではないか、という趣旨の発言をしている。

会社のトップ自身がここまで踏み込んだ表現を使ったのは重い。

問題は規則の不足だけではなかった。

長い歴史、地域での圧倒的な存在感、生活航路を担ってきた自負。

それらが逆に、「自分たちは大丈夫だ」という空気を生んでいなかったか。

会社側も今回、外部有識者による特別調査委員会の報告と提言を踏まえ、安全管理体制の抜本的見直しに取り組むとしている。

【動画】東海汽船社長が謝罪「甘えがあった」

TBS NEWS DIG:東海汽船・山﨑社長の謝罪会見と行政処分の映像はこちら

映像では、山﨑社長が元日の飲酒慣行について説明し、「誇り」が「奢り、甘え」に変わった可能性に言及している。

文字で読むより、会社側が今回の問題をどれほど深刻に受け止めているかが伝わりやすい。

なぜ「事業停止」ではなく「船舶使用停止」だったのか

国交省は今回、東海汽船の事業そのものを完全に停止する形ではなく、3隻の船舶を20日間使用停止とした。

TBSによれば、国交省は「業務停止」も検討したが、東京と伊豆諸島を結ぶ離島航路を担う事情などから、今回の形になったとされる。

これは東海汽船が置かれている特殊な立場を象徴する。

厳しい処分が必要。

しかし、船を全部止めれば島民生活に直接影響する。

行政処分を出す側も、単純に止めればいいとはならない。

島民からは「生鮮食品が来なくなったら困る」

テレビ朝日の取材では、島民から生鮮食品など物流への不安の声も出ている。

東海汽船の船は観光客を運ぶだけではない。

食料品。

日用品。

荷物。

人。

離島生活に必要なものを運んでいる。

その意味で今回の行政処分は、「一企業が罰を受ける」という話だけでは終わらない。

安全を確保しながら、生活航路を止めない。

この難しい両立が求められる。

代替運航には他社船まで投入

東海汽船は使用停止期間中、代替輸送を実施する。

使用停止対象は「橘丸」「セブンアイランド結」「セブンアイランド友」。

代わりに、

  • さるびあ丸
  • セブンアイランド大漁
  • くろしお丸(伊豆諸島開発)
  • おがさわら丸(小笠原海運)

などを使って運航を維持する。

会社単独ではなく、近隣航路の事業者の協力まで必要になる異例の対応だ。

国交省「安全管理体制が機能していなかった責任は極めて重大」

国土交通大臣は10月2日の会見で、今回の東海汽船問題について厳しい認識を示した。

経営トップを含め、現場の実態を把握して必要な是正につなげる安全意識が欠けており、安全管理体制が機能していなかった責任は極めて重大だという趣旨だ。

さらに、経営陣に対し「社風を一新する覚悟」で再発防止に取り組むよう求めている。

ここまで言われる企業不祥事は重い。

今回の問題は、単なる操作ミスでも、一人の規律違反でもない。

国側も「組織文化」のレベルで問題を見ている。

「ルールがある」ことと「守られる」ことは別

東海汽船には当然、安全管理規程が存在していた。

アルコール検査のルールもあった。

発航前検査の手順もあった。

舷門を閉鎖することも、船舶運航の基本だ。

それでも違反が起きた。

だから今回の問題が示しているのは、ルールを作るだけでは安全は守れないということだ。

現場で本当に守られているか。

管理者が確認しているか。

経営陣まで情報が届いているか。

違反を見つけた人が声を上げられるか。

長年の慣習に疑問を持てるか。

安全は、そのすべてが揃って初めて成り立つ。

137年の歴史が、逆に弱点になったのか

東海汽船は長い歴史を持つ。

東京諸島の住民にとって、なくてはならない会社でもある。

その実績は本来、大きな誇りだ。

しかし山﨑社長自身が語ったように、その誇りが長年の慣れによって「奢り」や「甘え」に変わることはあり得る。

「毎年やっているから大丈夫」

「昔からこの方法だから問題ない」

「事故が起きていないから安全だ」

こうした考えは、安全を扱う組織にとって最も危険な兆候の一つだ。

事故が起きなかったことと、安全管理が正しかったことは同じではない。

今回、事故が起きなかったことは救いだが…

今回の一連の問題で、重大な海難事故が発生したわけではない。

その点は大きな救いだ。

しかし、安全ルールの目的は「事故が起きてから反省する」ことではない。

事故が起きる前に危険な状態を取り除くことだ。

酒気帯び当直。

検査の肩代わり。

舷門未閉鎖。

発航前検査の不適切運用。

どれも、「たまたま事故にならなかった」と考えるべき事案だ。

東海汽船は信頼を取り戻せるのか

10月2日、東海汽船は特別調査委員会の調査結果や改善計画を公表した。

安全管理体制の抜本的な再構築。

アルコール検査体制の見直し。

発航前検査の適正化。

安全教育。

管理者体制の刷新。

やるべきことは多い。

だが、本当の意味で問われるのは制度を何個追加したかではない。

現場の人間が「これは危ない」と言える組織に変わるのか。

経営陣が現場の実態を把握できる会社になるのか。

そこだ。

20日間の船舶使用停止が終われば、船は再び走り出す。

だが、137年かけて築いた「安全に運んでくれる会社」という信頼は、20日で自動的に戻るわけではない。

東海汽船が本当に取り戻さなければならないのは、運航ダイヤではない。

「この船なら安心して乗れる」という、島民と利用者の信頼そのものだ。

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