
「コメントは控えたい」
一度ではない。
二度でもない。
2026年10月2日、簗和生農林水産大臣は、自身をめぐる「道路予算大幅カット」発言について記者から繰り返し説明を求められた。それに対し、同じ趣旨の「コメントは控えたい」という回答を16回繰り返したとTBSが報じている。
問題になっているのは、単なる失言ではない。
今年5月、地元・栃木県で開かれた会合で、簗氏が前回の衆院選で自身を支援しなかった自治体について、道路予算を「大幅にカットした」と発言したとされる音声が報じられた。
しかも、その音声では具体的な数字まで語られている。
那須烏山市は前年比64%減。
那珂川町は54%減。
もし政治的な支持・不支持と公共事業予算の配分が結び付けられていたのであれば、単なる言葉の問題では済まない。
一方で、政府は現在も事実関係を調査中だ。「選挙で支持しなかった自治体への報復として予算を削った」と確定したわけではない。ここは明確に分けて考える必要がある。
音声に残された「大幅にカットしました」
JNNが入手したとする音声では、簗氏とされる人物が、那須烏山市と那珂川町の2026年度道路予算について「大幅にカットした」という趣旨の発言をしている。
さらに音声では、那須烏山市について前年比64%減、那珂川町について54%減という具体的な数字まで示されていた。
そして問題視されているのは、その理由として、首長が自民党議員を必要としない姿勢を取ったことや、選挙での票数に言及したとされる点だ。
つまり、単なる予算結果の説明ではなく、選挙での支持状況と自治体への予算を結び付けるように受け取れる内容だった。
本当に「報復」だったのか
ここは冷静に分けなければならない。
確認できているのは、簗氏とされる音声に「予算を大幅カットした」という趣旨の発言があること、そして道路予算が大きく減っていると報じられていることだ。
一方で、「簗氏が国交省に圧力をかけ、選挙で支持しなかった自治体への報復として意図的に予算を減らした」という因果関係は、現時点で確認された事実ではない。
官房長官は、道路予算をめぐる点について、関係省庁で事実関係を調査していると説明している。
だから現段階で「報復予算カットが確定した」と断定することはできない。
ただし、報復とも受け取れる発言が音声で報じられ、実際に大幅な予算減があった以上、その因果関係が問われるのは当然だ。
10月2日の会見、「コメントは控えたい」を16回
問題がさらに大きくなったのが10月2日の記者会見だった。
記者から音声や予算との関係について質問が相次いだ。
しかし簗氏は、「大臣就任前の一議員としての活動に関わる事柄」であることを理由に、回答を控える姿勢を繰り返した。
TBSは、この会見で「コメントは控えたい」という趣旨の回答が16回に及んだと報じている。
【動画】「コメントは控えたい」を繰り返した会見
TBS NEWS DIG「簗農水大臣『コメント控える』16回繰り返す」会見映像はこちら
この映像を見ると、文字だけでは分からない会見の空気がはっきり伝わる。
質問が続く。
しかし回答は、「大臣就任前の一議員としての活動なのでコメントは控える」という線からなかなか動かない。
問題は、記者側が聞いていたのが道路行政の制度論だけではないことだ。
選挙で自分を支持しなかった自治体と予算を結び付けるような発言を本当にしたのか。
現職閣僚として、公共予算の公平性をどう考えるのか。
そこが問われていた。
午後には再会見、「表現ぶりが一部誤解を招くものだった」
そして同日夕方、簗氏は改めて会見を開いた。
午前中は回答を控えていたが、午後には一議員として説明する形で発言内容について言及。
国土交通省に予算額を問い合わせ、その結果を地元の会合で報告したことは事実だと説明した。
そのうえで、発言の「表現ぶりが一部誤解を招くものだった」という趣旨を述べた。
一方、「自分を支持しなかったから予算を削るよう働きかけた」という趣旨については否定している。
それでも本人は「音声を確認していない」
再会見でも疑問は残った。
大きな政治問題になっている、自身の発言とされる音声について、簗氏は入手も確認もしていないと説明した。
行程を確認した結果、5月24日に大田原支部の会合へ出席したことは事実だと認めている。
さらに、予算について国土交通省へ問い合わせ、その箇所付けの結果を報告したという認識も示した。
ただし、予算をカットするよう国交省へ依頼したことや、政治的な意図を伝えたことはないと説明している。
なぜ音声では「カットしました」と言ったのか
仮に簗氏自身が予算減額を決定していないのであれば、別の疑問が浮かぶ。
なぜ音声では、「予算を大幅にカットしました」という、自らが主体的に減らしたとも受け取れる表現を使ったのか。
これが、今回の発言が単なる言い間違いでは済まず、ここまで大きな問題になっている理由の一つだ。
地元会合で自身の政治力を強調するための表現だったのか。
単に予算結果を説明しただけなのか。
あるいは実際に何らかの働きかけがあったのか。
現段階では断定できない。
問われているのは「道路予算」だけではない
今回の問題は、「道路予算を64%減らしたかどうか」だけではない。
もっと大きいのは、公共予算と政治的支持を結び付けてよいのかという問題だ。
国の予算は税金だ。
その自治体で自民党候補が勝ったか。
首長が誰を応援したか。
住民がどの候補に投票したか。
本来、それによって行政サービスや公共事業の配分が左右されるものではない。
だからこそ、「自分を支持しなかった自治体だから予算を削った」と受け取れる発言は、極めて敏感な問題になる。
ただし、音声だけで実際に報復的な予算配分が行われたと断定することもできない。
必要なのは、予算決定の記録だ。
誰が要望したのか。
誰が査定したのか。
どの事業が減ったのか。
なぜ減ったのか。
簗氏がどの段階で関与したのか。
ここが明らかにならなければ、本当の評価はできない。
「コメントを控える」16回が残したもの
今回、最も強烈に残ったのは、結局この場面かもしれない。
道路予算をめぐる疑問について質問される。
簗氏は「コメントを控える」。
聞き方を変えられる。
また「コメントを控える」。
質問が続く。
それでも同じ趣旨の回答。
そして数時間後には再会見を開き、「表現ぶりが一部誤解を招くものだった」と説明した。
今後もっとも重要なのは、言葉の応酬そのものではない。
64%減、54%減という数字がどのような手続きで生まれたのか。
簗氏が本当にその決定に関与したのか。
そこだ。
音声は報じられた。
予算の数字も示された。
本人は一部について説明し、政府は事実関係を調査している。
「コメントは控えたい」を16回繰り返しても、その疑問まで消えたわけではない。