
NHKが、2023年にいったん全廃した外部法人委託による新規受信契約の戸別訪問営業を、2026年に再開・拡大している。
9月に一部地域で再開し、10月には首都圏や愛知県など大都市圏へ対象を広げた。背景には受信契約数の減少や受信料収入の落ち込みがあり、NHKは「対面によるアプローチを試行的に拡大する」と説明している。
2023年に「全廃」したはずの訪問営業が復活
NHKは、受信契約の新規獲得を目的とした外部法人による戸別訪問営業について、2023年9月までに全廃していた。
背景には、突然の訪問に対する批判や、営業経費の削減方針があった。以降は、電話、郵便、メールなどを中心とした「新たな営業アプローチ」へ軸足を移していた。
ところが2026年9月、NHKは外部法人への訪問営業委託を再開。10月には首都圏や愛知県など大都市圏に対象を広げた。
なぜ今になって再開したのか
最大の背景は、受信契約数と受信料収入の減少だ。
NHKによると、2025年度末の受信料の推計世帯支払率は全国で76.9%。前年度末の77.3%から0.4ポイント低下した。
東京では0.6ポイント、大阪では0.4ポイント低下しており、特に大都市圏での支払率低下が目立つ。
2023年の受信料値下げ以降、NHKは赤字決算が続いており、契約数減少を食い止めるため営業態勢を再び強化する必要が出てきたとみられる。
今回は「いきなり訪問」ではない
NHKは、過去の戸別訪問への批判を踏まえ、今回の再開では事前に書面で案内を送るなど、突然訪問する形をできるだけ避ける方針としている。
訪問担当者は「NHK地域コミュニケーター」と呼ばれ、身分を示す証明書を携行する。
本当にNHK関係者なのか不安な場合は、証明書の提示を求めることができる。
外部委託はどこまで広がっているのか
共同通信などの報道では、再開地域は東京、大阪、名古屋などの都市部が中心で、今後さらに他地域への拡大も検討されている。
またNHKは10月2日、「受信料の契約・収納業務の委託事業者の拡大について」と公式に案内を出している。
新規契約の獲得だけでなく、既に契約しているものの受信料が未払いとなっている世帯や事業所への訪問収納業務は従来から継続されており、今回の再開で「新規契約」と「未払い対応」の両面から対面営業が強化される形になる。
成果報酬も復活
関係者によると、今回の外部委託では営業成果に応じた報酬も支払われるという。
ただし、2023年以前と比べると報酬水準は低く設定されているとされる。
NHK内部には「以前の規模に戻すのは難しい」との見方もあり、今回の訪問営業がどこまで拡大するかはまだ流動的だ。
訪問員が来たら必ずその場で契約しなければならないのか
訪問担当者が来たからといって、その場で直ちに契約書へ署名しなければならないわけではない。
一方で、放送法第64条第1項では、NHKの放送を受信できる設備を設置した場合、受信契約を締結する義務があると定められている。
NHKの受信規約では、テレビ、TVチューナー付きパソコン、ワンセグ、TVチューナー付きカーナビなどが受信設備の例として挙げられている。
つまり、訪問員への対応と「契約義務があるかどうか」は別問題だ。
テレビがなければ契約義務はあるのか
NHKの放送を受信できるテレビやチューナー付き機器を設置していない場合、通常のテレビ受信契約は必要ない。
ただし、2025年10月からはNHKのインターネット配信の一部が「必須業務化」されており、NHK ONEの受信契約が必要となるサービスの利用を開始した場合も契約対象となる。
単にスマートフォンやパソコンを持っているだけで自動的に契約義務が発生するわけではなく、対象となる配信サービスの利用開始がポイントになる。
カーナビやワンセグも対象
NHK公式サイトは、NHK放送を受信できる設備として、テレビだけでなくワンセグやTVチューナー付きカーナビも挙げている。
そのため「家にテレビはないが、テレビ受信機能付きカーナビがある」というケースでも契約対象になる可能性がある。
一方、ラジオだけを設置している場合は受信契約の対象外だ。
「訪問を無視すれば契約義務もなくなる」は誤解
訪問営業を受けないこと自体で、契約義務が消えるわけではない。
NHKは、受信設備を設置しているにもかかわらず契約や支払いに応じないケースについて、文書、電話、訪問などで説明したうえで、最終的には裁判所を通じた法的手続きを行う場合があるとしている。
実際、NHKは未契約世帯や未収事業所に対する民事訴訟の実施状況を公式サイトで定期的に公表している。
一方で、訪問員に室内確認を強制する権限はない
訪問担当者はNHKの受信契約手続きを案内する立場であり、警察や裁判所の執行官のような強制調査権限を持っているわけではない。
そのため、訪問員が来たからといって、家の中へ入れる義務が当然に生じるわけではない。
不審に感じる場合は玄関を開けず、証明書の提示や氏名確認を求め、必要であればNHKの公式窓口から改めて手続きするという対応もできる。
「NHKです」を名乗る詐欺にも注意
NHKが実際に訪問営業を再開したことで、逆に注意が必要になるのが便乗詐欺だ。
「NHKの委託業者」を名乗って現金を要求したり、不審なQRコードや外部サイトへ誘導したりするケースが出る可能性もある。
NHKは訪問担当者が証明書を携行するとしているため、少しでも不審に感じた場合は、その場で現金や個人情報を渡さず、NHK公式窓口で確認する方が安全だ。
受信料収入減と「公平負担」の板挟み
NHK側は、受信料制度の公平負担を維持するため、契約して支払っている人と未契約・未払いの人との不公平を減らす必要があると説明している。
一方、視聴者側からすれば、2023年に「戸別訪問を減らす」と大きく方針転換した後で再び訪問営業が戻ってくることに違和感を覚える人も少なくないだろう。
今回の再開は、受信料制度そのものへの不満だけでなく、「なぜ廃止した営業手法を戻すのか」という別の議論も呼びそうだ。
今後、全国へ広がる可能性も
現時点では、東京、大阪、名古屋など大都市圏が中心だが、NHKは他地域への拡大も検討している。
2025年度末の推計世帯支払率は全国で低下しており、受信契約数の減少が続けば、訪問営業がさらに広がる可能性もある。
ただし、NHK自身も過去のような大規模な訪問営業へ完全に戻すのは難しいとみており、今回の試行がどの程度の成果を上げるかを見ながら判断するとみられる。
「訪問営業復活」は単なる営業強化ではない
今回の動きは、単にNHKの営業マンが再び家を回り始めたという話ではない。
2023年に一度は全廃した営業手法を、受信契約・受信料収入の減少を背景に再導入したという大きな方針転換だ。
事前通知、証明書携行、報酬水準の見直しなど、過去の批判を意識した仕組みにはなっている。
それでも、訪問を受ける側の負担感や不信感がどこまで解消されるかは未知数だ。
今後、訪問営業がどの地域まで広がるのか、契約数増加につながるのか、そして再び強い反発を招かないかが注目される。