リニア中央新幹線は本当に完成するのか?開業時期見通せず、工事費11兆円に倍増、各地で深刻な環境被害

リニア中央新幹線工事現場

2027年開業を目指して華々しくスタートしたリニア中央新幹線プロジェクト。しかし、その夢の超特急は今、深刻な危機に直面している。開業時期は完全に見通せず、工事費は当初の倍に膨張し、各地で深刻な環境被害が続出。専門家は「もう誰にも開業時期はわからない」と匙を投げる事態となっている。果たして、リニア中央新幹線は本当に完成するのか。

開業時期は完全に見通せず―2027年から2035年へ、そしてさらなる遅延へ

リニア中央新幹線の開業時期は、当初2027年を予定していた。しかし、2024年3月にJR東海はこの目標を正式に断念。現在は2035年開業を前提に工事費を試算しているが、実際の開業時期は全く見通せていない。鉄道ジャーナリストの梅原淳氏は「もう誰にもリニア開業時期はわからない」と断言する。

遅延の最大の原因は、南アルプストンネル静岡工区が唯一未着工であることだ。大井川の水問題で静岡県が着工を認めず、膠着状態が続いている。トンネル掘削工事には一般的に約10年かかるとされ、仮に今すぐ着工できたとしても完成は2034年頃となる計算だ。

しかし、問題は静岡だけではない。長野県内の13工区は、2026年2月から2027年3月にかけて相次いで完成する予定だったが、2028年冬頃から2031年冬頃への完成へと大幅に遅延している。都市部での掘削工事も難航しており、「静岡以外でも工事が遅れている」のが実態だ。

工事費が倍増―5.5兆円から11兆円へ、さらなる膨張の可能性

リニア中央新幹線の工事費は、当初計画の5兆5000億円から、2016年に7兆400億円に見直された。そして2025年10月、JR東海は工事費が約4兆円増えて11兆円に膨らむ見通しを発表した。わずか9年で倍増という異常事態である。

増額の要因は、物価高騰の影響が2兆3000億円、もろい地盤の対策が必要な難工事への対応が1兆2000億円などとされている。しかし、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの宮下光宏上席主任研究員は「工事費はさらに大きくなる可能性がある」と警告する。

建設業界は深刻な労働力不足に陥っており、社会ではインフラ老朽化対策や激甚化する災害対策も必要とされている。工事ニーズが高まる中でコストは上昇し続けるだろう。青函トンネルなど過去のトンネル工事でも大幅に工期が延びた前例があり、リニアの工期もさらに延長する可能性が高い。

岐阜県瑞浪市の悲劇―地盤沈下に「打つ手がない」と認めたJR東海

2024年5月、岐阜県瑞浪市大湫町で衝撃的な事態が発生した。リニアのトンネル工事が地下水脈を断ち切り、14カ所もの水源(ため池や井戸)が減渇水したのだ。さらに町全体で地盤沈下が進行し、公共施設の床が14センチも沈んでビー玉が自然に転がるような状態になった。

住民に愛されてきた「神明泉」も完全に干上がり、2026年1月には枯れ果てた姿が報道された。JR東海は工事を中断したが、地盤沈下については「打つ手がない」と事実上の無力を認めた。沈下の激しい箇所では1カ月に約1センチのペースで下がり、累計で10センチを超える沈下が記録されている。

長野県や愛知県でもリニア工事の近くで減渇水が起きているが、JR東海は因果関係を認めていない。住民説明会では「工事を再開したい」とするJR東海に対し、住民からは「どうなるの、ここは」と不安の声が漏れた。

東京都内でも続発する異常事態―路面隆起、酸欠空気の湧出

東京都内でも深刻な事故が相次いでいる。2025年10月には品川区で路面が13センチも隆起する事態が発生した。原因は、大深度地下(地下40メートル以深)で使用されたシールドマシンの添加剤に含まれる気泡剤の中の空気が、地表まで一気に湧き出したことだ。

2024年10月には町田市の民家の庭に地下水と気泡が突如湧き出した。この気泡の酸素濃度はわずか1パーセントで、もし民家のトイレや浴室などの狭い空間に溜まれば酸欠死の可能性もあった。トンネル工事は一時中断され、2025年1月に調査掘進が再開されたが、その後品川で再び隆起が発生している。

JR東海は町田での事故について「地質などに関して複数の条件が重なる通常と異なる現場環境だった」と説明したが、市民団体「リニア中央新幹線を考える町田の会」の亀山俊平氏は「地質は場所によって異なりどこも特殊。他の地点でも問題が起きることを示している」と批判する。

大深度法の闇―住民は事故が起きるまで工事を知らない

これらの事故に共通するのは、住民にとって「寝耳に水」の事件だったことだ。その背景には、2001年に施行された「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(通称・大深度法)がある。この法律は「大深度で実施する工事であれば、住民への周知も補償も不要」と定めている。

つまり、住民は事故が起きて初めて「まさか私の自宅直下が掘削されるなんて」と知ることになる。地下深くで何が行われているのか、どんな危険があるのか、住民には知る術がない。そして事故が起きた時には、すでに取り返しのつかない被害が発生しているのだ。

静岡県の水問題―川勝前知事の懸念が現実に

静岡県が南アルプストンネルの着工を認めない理由は、大井川の水量低下への懸念だ。トンネル建設に伴う地下水流出によって大井川の水量が低下すると、下流域の住民生活や農業に深刻な影響を及ぼす。

そして、この懸念は決して杞憂ではなかった。岐阜県瑞浪市では、地下150メートルのトンネル工事で大量の湧水が発生し、地下水の水位が大幅に低下。住民の井戸や池が干上がってしまった。掘削地点の地盤が軟弱なため、作業を止めると掘削面が崩落する恐れがあるとして工事を続行した結果、湧水量が急増し地下水位低下が加速したのだ。

静岡県島田市の田村典彦町長は「最下流で、大井川の地下水に100パーセント依存して生きている町」と深刻な事情を訴える。JR東海は「永久補償」も提案しているが、東京農業大学出身の北村正平・藤枝市長は「水がいったん少なくなったら、生態系は元に戻らない」と懸念を示している。

経済効果も幻に―人口減で想定より小さくなる恐れ

三菱UFJリサーチ&コンサルティングは2013年、東京-名古屋でリニアが開業する経済効果は50年間で約10兆7000億円と試算した。しかし、宮下光宏氏は「開業が遅れても基本的に効果の大きさは変わらないが、経済活動をする人口が減るほど効果も小さくなる」と指摘する。

特に中間駅が置かれる地方は既に人口減が深刻だ。開業が2035年以降にずれ込めば、想定する効果が見込めない恐れがある。11兆円という天文学的な工事費に見合う経済効果が本当に得られるのか、疑問は深まるばかりだ。

完成の目処は立っているのか―専門家は「わからない」

リニア中央新幹線は本当に完成するのか。この問いに対して、専門家たちは明確な答えを出せずにいる。静岡工区が今すぐ着工できても完成は2034年頃、他の工区でも大幅な遅延が続いている。工事費はさらに膨らむ可能性が高く、各地で深刻な環境被害が続出している。

JR東海は2025年10月末にリニアの新型試験車の内部を報道公開し、最新技術をアピールした。しかし、その数日前には品川区で道路の隆起が発生していた。華やかな技術展示の裏で、現場では深刻なトラブルが続発しているのだ。

市民団体は「工事の環境対策はいまだに不十分だと裏付けられた」と批判を強めている。住民説明会は1時間で打ち切られ、十分な説明がないまま工事が進められている。大井川流域では「水がいったん少なくなったら、生態系は元に戻らない」という懸念が現実のものとなりつつある。

夢の超特急か、悪夢のプロジェクトか

リニア中央新幹線は、かつて「夢の超特急」として期待された。東京-名古屋間を最速40分で結び、日本の経済を活性化させる切り札になるはずだった。しかし、現実は厳しい。開業時期は完全に見通せず、工事費は倍増し、各地で深刻な環境被害が続出している。

岐阜県瑞浪市では床が14センチ沈んだ公共施設があり、愛されてきた泉が干上がった。東京都内では路面が隆起し、民家の庭に酸欠空気が湧き出した。そして、JR東海は地盤沈下に「打つ手がない」と認めた。

果たして、このプロジェクトは本当に完成するのか。そして、完成したとしても、その代償はあまりにも大きすぎるのではないか。リニア中央新幹線は今、重大な岐路に立たされている。

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