
「マーケティングの神様」として、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)をV字回復させた立役者・森岡毅氏(53)率いる株式会社刀が、かつてない経営危機に直面している。官報に掲載された決算内容で明らかになった累積損失62億円、2024年3月に鳴り物入りで開業した「イマーシブ・フォート東京」のわずか2年での閉業、そして2025年7月に開業した沖縄の大規模テーマパーク「ジャングリア沖縄」の集客低迷と数カ月での倒産危機情報。週刊文春の報道により、主力マーケター5人の大量退社も明らかになった。USJでの輝かしい成功体験は、なぜ刀では通用しなかったのか。「データに基づく経営」を標榜してきた森岡氏の誤算と、テーマパーク事業の厳しい現実を徹底検証する。
官報が暴いた衝撃の累積損失62億円、連続赤字で資本金を1億円以下に減資
株式会社刀の財務状況は、官報に掲載された決算公告によって白日の下に晒された。第8期(2024年決算)において計上された最終赤字は55億4600万円、第9期(2025年決算)でも13億700万円の最終赤字を継続し、累積損失は62億円に達した。この巨額の赤字を受け、刀は資本金を1億円以下に減資する措置を断行した。これは外形標準課税の対象から外れ、法人税率の軽減や過去の赤字を将来の黒字と相殺しやすくするための典型的な財務的防衛策だ。
しかし、この減資には大きなデメリットがある。赤字を伴いながらも業績が急成長している企業にとっては有効だが、業績を悪化させている企業が税制上の優遇措置にすがらざるを得ない場合、キャッシュフローが逼迫していることを投資家に示唆することとなり、将来的な資金調達や事業経営が一層困難になる。刀はまさにその状況に陥っている。
イマーシブ・フォート東京、開業2年で閉業の衝撃「施設が大きすぎて需要に見合わず」
2024年3月1日、東京・お台場のヴィーナスフォート跡地に鳴り物入りで開業した「イマーシブ・フォート東京」(IFT)。全天候型の完全屋内型テーマパークとして国内屈指の面積(約30,000平方メートル)を誇り、映画や舞台の世界に観客が入り込む没入型のショーで注目を集めた。しかし、2025年12月25日、わずか2年足らずの2026年2月28日で営業終了することが発表された。
閉業の理由は明白だ。集客数と客単価が施設の維持コストに見合わなかった。入場料収入や物販収益が、賃料や人件費、広告宣伝費、償却損をまかなえず、施設が開業し収益を生むフェーズにあったはずの第9期においても、13億700万円の最終赤字を継続した。ITmediaの分析によれば、「施設が大きすぎて需要に見合わなかった」ことが最大の敗因だ。期間限定で跡地を活用する前提だったとはいえ、わずか2年での撤退は、森岡氏の誤算を象徴している。
ジャングリア沖縄、集客数は目標の半分「数カ月で倒産危機」金融機関関係者が証言
2025年7月、沖縄県北部(国頭郡今帰仁村と名護市にまたがる)に開業した大規模テーマパーク「ジャングリア沖縄」。森岡氏が手掛ける新たな旗艦プロジェクトとして期待されたが、開業からわずか半年で深刻な経営危機に陥っている。ジャングリアは、2025年7月から2026年1月の半年間で約65万人の入場者があったと発表している。しかし、週刊文春の取材によれば、社員の証言では「この数字はパークとスパの来場者を足し合わせたもので、パークだけの数字を見れば、実際のところは当初の来場者目標の半分程度となる50万人にとどまっている」という。
さらに深刻なのは、金融機関の関係者が明かした倒産危機情報だ。「ジャングリアは集客数が低迷しており、株式会社ジャパンエンターテイメントが、このままでは数カ月ほどで倒産する危機に直面しています。ただ、これまでイマーシブ・フォート東京(IFT)やネスタリゾート神戸、その他複数の事業に巨額の資金をつぎ込んだものの、いずれも失敗が続き、刀からも資金を投入するのが難しい。刀自体も倒産の危機に陥っているのです。これを知る金融機関も追加の融資を躊躇しており、先行きは非常に暗い状況です」。
「17時にアトラクションがクローズ」来場者が覚えた違和感、運営の苦しさが露呈
ジャングリア沖縄の経営の苦しさは、来場者の体験からも浮き彫りになっている。2026年2月に来場したAさんは、ある違和感を覚えたという。「17時頃、事前告知なく、乗り物のアトラクションがクローズしたのです。目玉の『ダイナソーサファリ』も、閉演の19時を待たずに18時で受付を締め切り、最後まで運営していたアトラクションは1つのみ。他のテーマパークだったら、ありえないです」。
通常、テーマパークは閉園時間まで全てのアトラクションを運営するのが当たり前だ。しかし、ジャングリアでは人件費削減のため、早々にアトラクションを閉鎖せざるを得ない状況に陥っている。これは、集客数の低迷と運営コストの高さが招いた苦肉の策だ。来場者の満足度を犠牲にしてまでコストを削減しなければならない状況は、テーマパークとして致命的だ。
主力マーケター7人中5人が退社、「ジャングリア沖縄は報道で伝えられる以上に厳しい」
週刊文春の報道により、さらに衝撃的な事実が明らかになった。IFT事業を担った主力マーケター7人のうち5人が退社していたのだ。社員の証言によれば、「ジャングリア沖縄は報道で伝えられる以上に厳しい」という。刀に事実関係を確認すると、「マーケティング担当者は7名ではなく2桁に及び、ご指摘の数字は一部を切り取った不正確な情報であると認識しております」と回答したが、主力メンバーの大量退社は事実だ。
優秀なマーケターが次々と会社を去るということは、社内の雰囲気が悪化し、将来への不安が広がっていることを示している。森岡氏のカリスマ性に惹かれて刀に集まった人材が、相次ぐ事業の失敗と経営危機を目の当たりにして、見切りをつけ始めているのだ。
USJ成功体験の汎用化に失敗、「強力なIP」なしでは通用しなかった森岡氏のマーケティング
なぜ、USJをV字回復させた森岡氏は、刀では失敗を繰り返すのか。ITmediaの分析は鋭い。「USJの成功は『強力なIP(知的財産)』あってのものだったのか」。USJには、ハリーポッター、ミニオン、スーパーマリオといった世界的に人気のIPがあった。森岡氏はこれらのIPを活用し、データに基づくマーケティングで集客を伸ばした。しかし、IFTやジャングリアには、そうした強力なIPがない。
森岡氏は「データに基づく経営」を標榜してきたが、データだけではテーマパークは成功しない。魅力的なコンテンツ、運営ノウハウ、そして何よりも来場者を惹きつけるIPが必要だ。コンサルティング業務と実業運営の間に横たわる構造的な乖離を、森岡氏は見誤ったのだ。
刀の回答「認識はございません」、森岡氏「経営者としての判断と責任を重く受け止める」
週刊文春の取材に対し、刀はジャングリアの運営会社や刀の倒産危機については「認識はございません」と回答した。しかし、官報に掲載された累積損失62億円、IFTの2年での閉業、ジャングリアの集客低迷、主力メンバーの大量退社という事実は、刀が深刻な経営危機に陥っていることを如実に示している。
森岡氏は「経営者としての判断と責任を重く受け止める」とコメントしたが、具体的な再建策は示されていない。金融機関も追加の融資を躊躇しており、刀とジャングリアの先行きは非常に暗い。
ネスタリゾート神戸、その他複数の事業も失敗「巨額の資金をつぎ込んだが、いずれも失敗」
刀の失敗は、IFTとジャングリアだけではない。金融機関の関係者によれば、「これまでイマーシブ・フォート東京(IFT)やネスタリゾート神戸、その他複数の事業に巨額の資金をつぎ込んだものの、いずれも失敗が続き」という。ネスタリゾート神戸は、兵庫県三木市にある大型複合リゾート施設で、刀がリブランディングに関わったとされる。しかし、こちらも期待された成果を上げられず、刀の財務を圧迫する要因となった。
森岡氏は、西武園ゆうえんちやハウステンボスのリブランディングでも成功を収めたとされるが、これらは既存の施設を再生する案件だった。一方、IFTやジャングリアは、新規にテーマパークを立ち上げる案件だ。既存施設の再生と新規立ち上げでは、求められるノウハウが全く異なる。森岡氏は、この違いを見誤ったのかもしれない。
「お金に取りつかれてしまった」告発第2弾で明かされた森岡氏の変化
週刊文春の告発第2弾では、「なぜ"マーケティングの神様"森岡毅は失敗したのか『USJ再建計画は入社前から…』『お金に取りつかれてしまった』」というタイトルで、森岡氏の変化が報じられた。関係者の証言によれば、森岡氏はUSJ時代の成功で自信を深め、独立後は大型案件を次々と手掛けるようになった。しかし、その過程で「お金に取りつかれてしまった」という指摘もある。
巨額の資金を投じて大型テーマパークを次々と立ち上げる戦略は、成功すれば莫大な利益を生むが、失敗すれば会社を倒産に追い込む。森岡氏は、リスクの高い賭けに出て、そして失敗したのだ。
テーマパーク事業の厳しい現実、初期投資と運営コストの重さ
テーマパーク事業は、初期投資と運営コストが非常に高い。IFTの場合、第8期に55億4600万円の赤字を計上したが、これはテーマパーク建設に伴う初期投資だ。しかし、施設が開業し収益を生むフェーズにあったはずの第9期でも、13億700万円の赤字を継続した。これは、入場料収入や物販収益が、賃料や人件費、広告宣伝費、償却損をまかなえていないことを示している。
ジャングリアも同様だ。大規模なテーマパークを建設するには莫大な初期投資が必要で、開業後も高い運営コストがかかる。集客数が目標の半分にとどまれば、赤字は拡大し続ける。テーマパーク事業は、成功すれば大きなリターンを得られるが、失敗すれば会社を倒産に追い込む厳しいビジネスなのだ。
森岡氏の誤算、「データに基づく経営」だけでは成功しない
森岡氏は「データに基づく経営」を標榜してきたが、データだけではテーマパークは成功しない。USJでの成功体験が、刀では通用しなかった最大の理由は、強力なIPの有無だ。USJには、ハリーポッター、ミニオン、スーパーマリオといった世界的に人気のIPがあった。しかし、IFTやジャングリアには、そうしたIPがない。
森岡氏は、データに基づくマーケティングで集客を伸ばせると考えたのかもしれないが、テーマパークの成功には、魅力的なコンテンツ、運営ノウハウ、そして何よりも来場者を惹きつけるIPが必要だ。データはあくまでツールであり、データだけでは人を感動させることはできない。
刀とジャングリアの未来、倒産危機を乗り越えられるのか
刀とジャングリアの未来は、非常に厳しい。累積損失62億円、IFTの2年での閉業、ジャングリアの集客低迷、主力メンバーの大量退社、そして金融機関の融資躊躇。これらの事実は、刀が深刻な経営危機に陥っていることを如実に示している。金融機関の関係者が「数カ月ほどで倒産する危機」と証言するほど、状況は切迫している。
森岡氏は「経営者としての判断と責任を重く受け止める」とコメントしたが、具体的な再建策は示されていない。ジャングリアの集客を劇的に伸ばすか、新たな資金調達に成功するか、あるいは事業を縮小して損失を最小限に抑えるか。いずれにせよ、刀とジャングリアは、今まさに存亡の危機に立たされている。
「マーケティングの神様」の転落、USJ成功体験の呪縛
「マーケティングの神様」として崇められてきた森岡毅氏が、なぜこれほどの失敗を繰り返すのか。その答えは、USJ成功体験の呪縛にある。USJでの輝かしい成功が、森岡氏に過信を生み、リスクの高い大型案件に次々と手を出させた。しかし、USJの成功は、強力なIPと既存施設の再生という条件があってこそのものだった。
新規にテーマパークを立ち上げるという、全く異なる条件下では、USJでの成功体験は通用しなかった。森岡氏は、自らの成功体験に囚われ、テーマパーク事業の厳しい現実を見誤ったのだ。「マーケティングの神様」の転落は、成功体験の危うさを私たちに教えてくれる。