2025年7月、大阪市内で発生した暴行事件が、改めて市民活動における暴力の問題を浮き彫りにした。参政党のイベント会場近くを歩いていた男性が、「しばき隊」を名乗る複数の男性から暴行を受け、肋骨2本を骨折する重傷を負った。しかし被害者は参政党の支持者ではなく、ただオレンジ色の帽子を被っていたという理由だけで標的にされた。この事件は、「反差別」を掲げる団体が、見た目だけで人を判断し暴力を振るうという皮肉な結果を生んだ。本稿では、この暴行事件の詳細と、「しばき隊」とは何なのかについて詳しく検証する。

オレンジ色の帽子が招いた悲劇
事件が発生したのは2025年7月27日の午後、参院選投開票日のわずか1週間後のことであった。大阪市港区で参政党のイベントが開催されており、その会場近くを歩いていた男性が突然、複数の男性に取り囲まれた。被害者が提供した動画には、「何教えてもろたん?何教えてもろたん?」と執拗に詰め寄る男の声が記録されている。目の前に立ちふさがり、進路を塞ごうとする様子も映っていた。
被害者の男性は当時の状況をこう振り返る。「当時僕はオレンジ色の帽子をかぶっていたんです。参政党はオレンジ色じゃないですか。たぶん勘違いされた」。参政党のイメージカラーは橙色(オレンジ)であり、大和言葉で「だいだい(橙)」と表記される。これは「代々」とかけており、「代々日本が続くように」という願いを込めたものである。しかし、この色が被害者にとっては災いとなった。
加害者たちは「お前は参政党の党員なのか?」と問い詰め、被害者を参政党支持者と決めつけた。しかし被害者は明確に否定する。「私は党員でもないし、そんなセミナーに参加してたわけでもないので、完全にちょっと勘違いされた」。それでも加害者たちは暴行を加え、被害者は押し倒されるなどして肋骨を2本折る重傷を負った。被害者は「本当に暴力だと思うので、何とか取り締まってもらいたい」と訴え、被害届を提出した。大阪府警は傷害事件として捜査を進めている。
「しばき隊」とは何か
この暴行事件で加害者が名乗った「しばき隊」とは、正式には「対レイシスト行動集団(C.R.A.C. = Counter-Racist Action Collective)」と呼ばれる組織である。2013年2月に「レイシストをしばき隊」として結成され、2014年10月に現在の名称に改称された。会長は野間易通が務めている。
組織の結成経緯は、野間易通が2013年1月12日にTwitterで「在特狩り行きたいな」とつぶやいたことに始まる。在日特権を許さない市民の会(在特会)などの右派デモに対抗する「カウンター」組織として発足した。当初は「徹底的な非暴力によるカウンター」を運動方針として掲げていたが、翌3月からは猛烈な大声コール(罵声連呼)や待ち伏せての暴力的な「カウンター」運動へと方針転換した。
しばき隊の活動内容は、在特会などの右派デモに対して沿道から中指を突き立てたり、プラカードを掲げたり、拡声器で「帰れ!」「クズ!ボケ!カス!」「ゴキブリレイシストども!」「豚は死ね」「日本人として恥ずかしいわ!アホ!」などといったシュプレヒコールを行うというものである。弁護士の神原元は「ネトウヨ殺す」という発言も行っている。2017年以降は、在特会だけでなく右派政党の選挙活動にも「カウンター」を展開するようになった。
組織の特徴と構成員
しばき隊の大きな特徴は、構成員と非構成員の境界が明確でないことである。野間易通以外のメンバーは基本的に匿名であり、各「行動」ごとに参加者は流動的である。このため、関係している人物は関与の程度を問わず「しばき隊界隈」と総称されることが多い。野間自身も、カウンター活動を行う人々のすべてがメンバーではなく、メンバーの数十人を除いてネット上の告知を見るなどして自然に集結した人々であると説明している。
元メンバーで組織のご意見番だった清義明は、しばき隊について「社会運動の体裁を整えられるような集団ではなく、もともとネットのチンピラなんだから、チンピラなりの分をわきまえるべきだ」と批判している。暴力是認であること、野間以外は基本的に匿名かつ参加者は各「行動」ごとに流動的であることから、批判者からは「日本版Antifa」「極左暴力集団」「トクリュウ」とも指摘されている。
野間易通は2014年5月27日、Twitterで「警察からしばき隊は北朝鮮に関係している人間がいると伝えられました。本当ですか?」という質問に対し、「しばき隊は北朝鮮人民解放軍の便衣兵である」と返答している。この発言の真偽は不明だが、組織の性格を示唆する一つの証言として記録されている。
暴力と逮捕の歴史
しばき隊の歴史は、暴力事件と逮捕の歴史でもある。2013年2月23日、東神奈川駅西口で在特会の桜井誠に対して「説教」と称して襲撃し、野間、佐川、伊藤の3人が警察に連行された。同年6月16日には新宿駅東口で在特会との乱闘が発生し、しばき隊メンバー3名を含む計8名が暴行容疑で現行犯逮捕された。
2014年1月18日には、東京都港区六本木の路上で、在特会主催のデモに反発した東京大学生が自転車でデモ隊に突っ込み、在特会会員の男性に体当たりするなどの暴行を加えて現行犯逮捕された。この大学生はしばき隊の関係者であるとされている。
2015年には、Facebookではすみとしこのイラストを評価した約400人の個人情報がリスト化されネット上に公開される事件が発生した。実行したのはC.R.A.C.メンバーを名乗るTwitterアカウントであるとの情報が流れ、F-Secure幹部社員が関与していたことが判明し、同社を辞職した。この事件で使われた「ぱよぱよちーん」という言葉は、2015年度ネット流行語大賞銀賞を獲得している。
同じく2015年には、しばき隊構成員の坂本秀樹(ハンドルネーム「壇宿六」)が、新潟水俣病弁護団長をつとめる高島章弁護士のTwitterに「うるせーな、ハゲ!はよ、弁護士の仕事やめろ。プロのハゲとして生きろ。ネトウヨ弁護士。クソ馬鹿ハゲ野郎!」などと暴言を吐いた。坂本の勤務先が新潟日報の報道部長であったことが報道され、懲戒休職処分となり、翌年退職した。
参政党との対立
しばき隊が参政党を標的にするようになった背景には、政治的立場の根本的な対立がある。しばき隊(C.R.A.C.)は左派・リベラル系の反差別団体であり、参政党は右派・保守系政党である。参政党は「日本人ファースト」を掲げ、外国人労働者の制限やグローバリズムへの反対を主張している。海外メディアからは「極右」「右翼ポピュリスト」と評され、トランプ式のポピュリズムを日本に持ち込んだとの指摘もある。
しばき隊は参政党の「日本人ファースト」政策を排外主義・差別と認識し、在特会と同様の標的と見なしている。2025年7月の参院選では、参政党の街頭演説に対して各地で抗議活動が発生した。7月19日には東京都港区の芝公園での最終演説に100人以上が抗議し、「わたしは差別に抗う」などのポスターを掲げた。
しかし、抗議活動の中には対話を試みる者もいた。東京新聞の報道によれば、ある抗議者は参政党支持者に「怖い気持ちは誰にでもある。でも外国人や障害者、弱い立場の人はもっと怖いのでは」「犯罪を取り締まるのは、外国人とか日本人とか関係ないですよね」と語りかけた。周囲に集まった20人ほどの参政党支持者は、誰ひとりやじを飛ばしたり罵倒したりせず、真剣に聞き入っていたという。
メディアと識者の批判
しばき隊の活動に対しては、メディアや識者から厳しい批判が寄せられている。ニューズウィーク日本版は、「反差別という絶対的な大義を盾に、相手の言動に少しでも差別的な響きがあれば容赦なく身元や過去を暴き、徹底的な批判を加え、社会的生命を抹殺しようとする」活動を行っていると批判した。また、「法をないがしろにすると受け止められかねない発言だ」とし、「差別的な言論を暴力や権力といった力で抑え込もうとするだけでは、憎しみが消えるどころか、新たな憎悪の連鎖を生むだけだ」と警告している。
朝日新聞は、在特会もしばき隊も「どっちもどっちだな」という印象を受けるとし、デモに抗議するにしても他にやりようはないのか、汚い罵倒の応酬ではなく他の手段を取るべきと批判している。金沢大学の仲正昌樹教授は、在特会としばき隊の関係について「メディアと警察に守られながら過激さを競い合うコントそのもの」と批判している。
ジャーナリストの中川淳一郎は、しばき隊メンバーからの罵倒を受けた経験から「ネトウヨはとんでもないが、カウンターもどうしようもないバカだらけだ」と思うようになり、ついには「どっちもバカだが、ネトウヨの方がカウンターよりマシ」と考えるようになったという。また、「カウンター」内部の「追放騒動」や「リンチ事件」等について「ちょっと過激過ぎでは?」などと反論すると、「集団で一斉に、罵倒ツイートを浴びせてくるようになる」と述べている。
今回の事件が示すもの
今回の大阪での暴行事件は、しばき隊の活動が持つ根本的な問題を浮き彫りにした。第一に、誤認による暴行という点である。被害者は参政党支持者ではなかったにもかかわらず、オレンジ色の帽子を被っていただけで攻撃された。これは、しばき隊が掲げる「反差別」の理念と真っ向から矛盾する行為である。見た目だけで人を判断し、暴力を振るうことは、まさに差別そのものではないだろうか。
第二に、無関係な一般市民への暴力という点である。仮に被害者が参政党支持者であったとしても、暴力は正当化されない。しかし今回の事件では、政治的立場に関係なく、見た目だけで攻撃が行われた。これは、しばき隊の活動が「反差別」という大義名分のもとで、無差別な暴力へと変質していることを示している。
第三に、重傷を負わせるという深刻な結果である。肋骨2本骨折は決して軽い怪我ではない。被害者は「人生においてなかなか経験したことのないような絡まれ方だったので、当時は訳が分からなかった」と語っている。この事件は、しばき隊の暴力性がエスカレートしていることを示唆している。
「反差別」の名のもとでの暴力
しばき隊は「反差別」「反レイシズム」を掲げているが、その活動実態は暴力と罵倒に満ちている。野間易通は、差別的表現に対しては上品で冷静な議論ではなく怒りを持って叫ぶのが正常であるとして運動の正当性を主張している。しかし、怒りを表現することと暴力を振るうことは全く別の問題である。
弁護士の神原元は、「属性を理由とする差別的表現」ではない単なる「罵倒」や「罵声」はヘイトスピーチではないと言及している。しかし、この論理は危険である。なぜなら、「罵倒」や「罵声」が許されるならば、あらゆる暴言が正当化されてしまうからである。実際、しばき隊メンバーは「ゴキブリレイシストども!」「豚は死ね」「ネトウヨ殺す」といった極めて攻撃的な言葉を使用している。
また、しばき隊は「在日の人々を守る」のではなく、「差別に反対し、日本社会の公正さを守る」ことを任務としているという。しかし、暴力によって「公正さ」を守ることができるのだろうか。むしろ、暴力は社会の公正さを破壊するものではないだろうか。
関連組織との連携
しばき隊は、在日本大韓民国民団(民団)、のりこえねっと、日本共産党、社民党、立憲民主党などと連携している。これらの組織との関係は、しばき隊の政治的立場を明確に示している。しかし同時に、これらの組織がしばき隊の暴力的な活動をどのように評価しているのかという問題も浮上する。
参議院議員の有田芳生は、既存の運動体・政党を「合法主義のあまり、闘わない」「きれい事と口先だけの人権派」と批判し、しばき隊および男組などの関連団体は「ぎりぎりまでやってくれる」と評価した。しかし、「ぎりぎりまでやる」ことが暴力を伴うならば、それは法治国家における政治活動として許容されるべきではない。
神奈川新聞記者の排除問題
2025年7月、参政党は記者会見から神奈川新聞の石橋学記者を排除し、その理由として「第27回参議院選挙の選挙期間中、『しばき隊』と呼ばれる団体と行動を共にし、本党の街頭演説で大声による誹謗中傷などの妨害行為に関与していたことが確認されています」と説明した。これに対し神奈川新聞は「『しばき隊』という団体は存在せず、暴力的な集団とみなして攻撃するためのネットスラングにすぎない」と反論した。
この論争は、「しばき隊」という組織の曖昧さを象徴している。確かに、現在「しばき隊」という正式名称の団体は存在しない。2014年に「対レイシスト行動集団(C.R.A.C.)」に改称されたからである。しかし、構成員と非構成員の境界が明確でないため、誰が「しばき隊」なのかを特定することは困難である。
神奈川新聞は「しばき隊」を「ネットスラング」と表現しているが、今回の大阪での暴行事件では、加害者自身が「しばき隊」を名乗っている。これは、「しばき隊」という名称が依然として活動家の間で使用されていることを示している。神奈川新聞の主張は、組織の実態を隠蔽しようとする試みとも受け取れる。
社会への影響
しばき隊の活動は、日本社会にどのような影響を与えているのだろうか。第一に、政治的対立の暴力化である。本来、民主主義社会では、異なる政治的立場の人々が言論によって議論を戦わせるべきである。しかし、しばき隊の活動は、言論ではなく暴力によって対立を解決しようとするものである。これは民主主義の根幹を揺るがす行為である。
第二に、分断の深化である。しばき隊の暴力的な活動は、左派と右派の対立をさらに深刻化させている。東京新聞の報道にあったような、参政党支持者との対話の試みは貴重である。しかし、しばき隊の暴力は、そうした対話の可能性を閉ざしてしまう。
第三に、一般市民の恐怖である。今回の事件の被害者のように、政治的立場に関係なく、見た目だけで暴力の標的にされる可能性がある。これは、市民が自由に政治的意見を表明することを萎縮させる効果を持つ。オレンジ色の帽子を被っただけで暴行されるという事実は、表現の自由に対する深刻な脅威である。
今後の展望
大阪府警は今回の暴行事件を傷害事件として捜査している。加害者が特定され、法的責任を問われることが期待される。しかし、この事件は単なる個別の刑事事件ではない。しばき隊という組織の暴力性、そして「反差別」という大義名分のもとで暴力が正当化される危険性を示す象徴的な事件である。
しばき隊の支持者や関連組織は、この事件を真摯に受け止め、組織の活動方針を根本的に見直すべきである。暴力によって差別をなくすことはできない。むしろ、暴力は新たな憎悪と分断を生み出すだけである。真の「反差別」運動とは、暴力ではなく対話と理解によって実現されるべきものである。
また、メディアや識者も、しばき隊の活動を批判的に検証する必要がある。「反差別」という大義名分に惑わされることなく、暴力は暴力として明確に非難すべきである。神奈川新聞のように、しばき隊の存在を「ネットスラング」として矮小化する姿勢は、問題の本質から目を背けるものである。
今回の事件は、日本社会に重要な問いを投げかけている。私たちは、政治的対立をどのように解決すべきなのか。暴力によってではなく、言論と対話によって解決する道を選ぶべきである。そして、いかなる大義名分があろうとも、暴力は決して正当化されないという原則を堅持すべきである。オレンジ色の帽子を被っていただけで暴行される社会は、決して健全な民主主義社会とは言えない。